安全管理・ヒヤリハット
航空安全のSHELモデルとは|ヒューマンファクター分析の基本フレームワークを現役パイロットが解説
📋 この記事でわかること
- SHELモデルの定義と4つの構成要素
- 各要素(Software・Hardware・Environment・Liveware)の内容と具体例
- 「インターフェースのミスマッチ」という考え方
- SHELモデルとTEM・Dirty Dozenとの関係
- 口述試験で問われるポイントと模範回答
「ヒューマンエラーは人の能力不足が原因」と考えるのは早計です。SHELモデルは、人(Liveware)を中心に、ソフトウェア・ハードウェア・環境という他の要素との「インターフェース(接点)」に注目し、事故の真因を多角的に分析するためのフレームワークです。ヒューマンファクター分析の基礎として、口述試験でも他のモデル(Dirty DozenやTEM)と並んで問われることがあります。ヘリコプターだけでなく飛行機のパイロットを目指す方にも共通して役立つ内容です。
✓ この記事が役立つ人
- 安全管理・ヒューマンファクターに関する口述試験を控えている方
- SHELモデルの4要素とインターフェースの考え方を理解したい方
- TEM・Dirty Dozenとの関係を整理したい方
⚠ こんな方は先に基礎を
- ヒューマンファクターの基本概念をまだ学んでいない方
- TEM(脅威とエラーのマネジメント)をまだ理解していない方
目次
- SHELモデルとは|定義と目的
- 4つの構成要素:S・H・E・L
- インターフェース(接点)という考え方
- SHELモデルの活用例
- SHELモデルとTEM・Dirty Dozenとの関係
- 口述試験Q&A
- まとめ
01 SHELモデルとは|定義と目的
定義
SHELモデルとは、航空安全におけるヒューマンファクター分析のフレームワークの一つで、Software(ソフトウェア)・Hardware(ハードウェア)・Environment(環境)・Liveware(人間)の4要素と、それらの間のインターフェース(接点)に着目して事故・エラーの要因を分析する手法をいう。ICAOのヒューマンファクター訓練資料でも採用されている。
SHELモデルは何のために使うんですか?
事故やインシデントが起きたとき、「パイロットのミス」だけに原因を求めるのではなく、人と周囲の要素(手順・機材・環境)との間に問題がなかったかを系統的に確認するためのツールです。エラーの真因を多面的に見るための視点を与えてくれます。
🔑 SHELモデルの中心は「人」
SHELモデルでは、中心に位置する「Liveware(人間)」を取り囲むように、Software・Hardware・Environment・他のLiveware(他者)が配置される。人がこれら全てと相互作用しており、その接点(インターフェース)でミスマッチが生じるとエラーにつながるという考え方が基本となる。
SHELモデルでは、中心に位置する「Liveware(人間)」を取り囲むように、Software・Hardware・Environment・他のLiveware(他者)が配置される。人がこれら全てと相互作用しており、その接点(インターフェース)でミスマッチが生じるとエラーにつながるという考え方が基本となる。
02 4つの構成要素:S・H・E・L
SHELモデルの4要素それぞれの内容と、航空運航における具体例を見ていきます。
S:Software(ソフトウェア)
手順・規則・マニュアル・チェックリスト・シンボル・記号など、ハードウェアを支える非物理的な要素をいう。運航規程(OM)、SOP(標準運航手順)、チェックリストのデザインなどが含まれる。
H:Hardware(ハードウェア)
航空機・エンジン・コックピットレイアウト・スイッチ・表示装置など、物理的な機材をいう。操作性・視認性・人間工学的な設計の良し悪しが含まれる。
E:Environment(環境)
運航が行われる物理的環境(気象・照明・温度・振動・騒音)および組織的環境(会社の文化・規制・経済的圧力)をいう。コックピット内の環境だけでなく、運航全体を取り巻く広い意味での環境を含む。
L:Liveware(人間)
パイロット・運航管理者・整備士・管制官など、システムに関わる「人」をいう。SHELモデルの中心に位置し、知識・スキル・身体的限界・心理状態などが含まれる。「他のLiveware」として、クルー間・組織内の他者との関係も分析対象となる。
| 要素 | 名称 | 航空運航における具体例 |
|---|---|---|
| S | Software | 運航規程・SOP・チェックリスト・無線交信のフォーマット |
| H | Hardware | コックピットのスイッチ配置・計器の視認性・座席・操縦装置 |
| E | Environment | 気象・騒音・温度・照明・組織文化・運航スケジュールの圧力 |
| L | Liveware | パイロット本人・他のクルー・管制官・整備士などすべての関係者 |
03 インターフェース(接点)という考え方
SHELモデルの最大の特徴は、各要素そのものではなく、要素間の「インターフェース(接点)」に注目することです。中心のLiveware(人)が他の3要素(およびほかのLiveware)と接する部分にミスマッチがあると、エラーが発生しやすくなります。
「インターフェースのミスマッチ」って、具体的にはどんな状況ですか?
例えば、似たような形・配置のスイッチが並んでいて押し間違えやすい場合、それは「人とハードウェアのインターフェース」のミスマッチです。難解で実態に合わない手順書なら「人とソフトウェアのインターフェース」のミスマッチ、というふうに整理します。
| インターフェース | ミスマッチの例 |
|---|---|
| Liveware – Software | 現実の運航と合わない手順書、わかりにくいチェックリストの構成 |
| Liveware – Hardware | 視認しにくい計器表示、似た形状で誤操作を誘発するスイッチ配置 |
| Liveware – Environment | 過度な騒音・温度によるパフォーマンス低下、組織的な時間的プレッシャー |
| Liveware – Liveware | クルー間のコミュニケーション不足、権威勾配(Authority Gradient)による意見の言いにくさ |
🔑 権威勾配(Authority Gradient)とは
機長と副操縦士、教官と訓練生など、立場の差から生じる「意見を言いにくい関係性」を権威勾配という。SHELモデルの「Liveware – Liveware」インターフェースにおける典型的なミスマッチであり、CRMの訓練対象でもある。
機長と副操縦士、教官と訓練生など、立場の差から生じる「意見を言いにくい関係性」を権威勾配という。SHELモデルの「Liveware – Liveware」インターフェースにおける典型的なミスマッチであり、CRMの訓練対象でもある。
04 SHELモデルの活用例
実際のインシデント分析でSHELモデルをどのように使うか、具体的なシナリオで考えてみましょう。
シナリオ:チェックリスト確認の漏れによるトラブル
離陸前チェックリストの一項目を確認せず、装備品の設定不備に気づかず離陸してしまったケース。SHELモデルで分析すると、単に「パイロットの確認不足」と結論づけるのではなく、各要素のインターフェースを確認する。
| 分析の視点 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| Software | チェックリストの該当項目はわかりやすい位置・記載だったか。手順が複雑すぎなかったか |
| Hardware | 該当する装備品のスイッチ・表示は視認しやすい位置にあったか |
| Environment | 離陸準備時に時間的プレッシャーや騒音・照明などの妨げがなかったか |
| Liveware | パイロットの疲労状態・他クルーとの確認のやりとりは適切だったか |
このように、SHELモデルを用いることで「人を責める」のではなく「システム全体のどこに改善余地があるか」という視点で再発防止策を検討できます。これは安全管理システム(SMS)における根本原因分析の基本姿勢でもあります。
05 SHELモデルとTEM・Dirty Dozenとの関係
安全管理・ヒューマンファクター分析には複数のモデルが存在します。それぞれの位置づけを整理しておくと、口述試験で「違いを説明してください」と問われた際に答えやすくなります。
| モデル | 焦点 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| SHELモデル | 人と周囲の要素(S・H・E・他のL)のインターフェース | 事故・インシデントの根本原因分析、システム全体の視点 |
| Dirty Dozen | ヒューマンエラーを引き起こす12の要因(個人レベル) | 個人の状態・行動傾向のセルフチェック、整備分野で特に活用 |
| TEM | 脅威・エラー・アンデザイアブルステートの連鎖 | 運航中のリアルタイムな状況管理、訓練評価 |
🔑 3モデルの関係を一言でまとめると
SHELモデルは「事故が起きた後に、なぜ起きたかをシステム全体で分析する」視点。Dirty Dozenは「個人がエラーを起こしやすい状態にないかをチェックする」視点。TEMは「飛行中にリアルタイムで脅威とエラーを管理する」視点。それぞれ異なる場面・目的で使い分けられる。
SHELモデルは「事故が起きた後に、なぜ起きたかをシステム全体で分析する」視点。Dirty Dozenは「個人がエラーを起こしやすい状態にないかをチェックする」視点。TEMは「飛行中にリアルタイムで脅威とエラーを管理する」視点。それぞれ異なる場面・目的で使い分けられる。
06 口述試験Q&A
SHELモデルに関して口述試験で問われやすい質問と模範回答です。
SHELモデルとは何ですか?4つの要素を挙げて説明してください。
SHELモデルは、Software・Hardware・Environment・Livewareの4要素と、それらの間のインターフェースに着目してエラーの要因を分析するヒューマンファクター分析のフレームワークです。Softwareは手順・規則、Hardwareは機材、Environmentは物理的・組織的環境、Livewareは人を指します。
キーワード:Software・Hardware・Environment・Liveware・インターフェース
SHELモデルにおける「インターフェース」とは何を指しますか?
中心に位置する人間(Liveware)と、ソフトウェア・ハードウェア・環境・他の人間との接点を指します。このインターフェースにミスマッチがあると、それがヒューマンエラーの要因となります。
キーワード:接点・ミスマッチ・人間中心・エラー要因
権威勾配(Authority Gradient)とはどのようなものですか?SHELモデルのどのインターフェースに該当しますか?
機長と副操縦士、教官と訓練生など立場の差から生じる、意見を言いにくい関係性のことです。SHELモデルの「Liveware – Liveware」インターフェースのミスマッチに該当し、CRM訓練でも重要な対象です。
キーワード:権威勾配・Liveware-Liveware・CRM
SHELモデルとTEMの違いを説明してください。
SHELモデルは事故やインシデントの根本原因をシステム全体の視点から分析するモデルです。一方TEMは、飛行中にリアルタイムで脅威とエラーを管理し、アンデザイアブルステートに至らないようにするための運航中の管理フレームワークです。分析の対象とする時間軸が異なります。
キーワード:根本原因分析・リアルタイム管理・時間軸の違い
SHELモデルを用いる利点は何ですか?
事故やエラーの原因を「人のミス」だけに帰着させず、手順・機材・環境・人間関係といった多角的な視点からシステム全体の改善点を発見できる点です。これにより根本的かつ効果的な再発防止策を検討できます。
キーワード:多角的分析・システム改善・再発防止
まとめ
- ✓SHELモデルはSoftware・Hardware・Environment・Livewareの4要素とそのインターフェースに着目するヒューマンファクター分析フレームワーク
- ✓中心に位置するLiveware(人)と他の3要素・他者との接点(インターフェース)のミスマッチがエラーの要因となる
- ✓権威勾配はLiveware-Livewareインターフェースの典型的なミスマッチであり、CRMの訓練対象でもある
- ✓SHELモデルは根本原因分析、Dirty Dozenは個人状態のチェック、TEMはリアルタイム管理という異なる位置づけを持つ
- ✓SHELモデルを使うことで「人を責めず、システム全体を改善する」視点を持つことができる
【免責事項】本記事は口述試験対策を目的とした解説記事です。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、法令・制度の詳細は変更される場合があります。実際の飛行および試験準備にあたっては、最新のAIP(航空路誌)・航空法令・所属訓練機関の指示を必ずご確認ください。
